設立登記を電子申請する準備(1)定款などの資料作成

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設立登記の電子申請のメリット

総合編の❽「なぜ合同会社なの?」で、合同会社と株式会社の設立費用の比較をしました。登録免許税が、合同会社の場合は60,000円なのに対し、株式会社の場合は2.5倍にあたる150,000円です。

そしてこれに加えて、登記を書面で行った場合には、登記申請用紙に印紙を貼らなければならず、その印紙代に40,000円かかります。合同会社の設立費用は、一気に10万円になってしまいます。

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  • 設立登記を電子申請で行えば、印紙代40,000円を節約できます。

これが設立登記を電子申請で行う最大のメリットです。(*ただし裏があって、電子申請に必要な電子署名のために、Adobe Acrobatというソフトを購入しなければなりません。これについては「デジタル的準備」のところで、詳しく述べます)

もう一つのメリットは、設立登記の電子申請を行う時に、法務省が発行している「申請用総合ソフト」というソフトを、パソコンにインストールするのですが、これがあると、自分の会社のその後に生じる登記変更の際にも、同じく印紙代を節約できます。また他の会社や不動産の全部事項証明書を取りたいときにも、電子申請することができるので、法務局に出向く必要がなくなります。(法務省の「登記・供託オンライン申請システム(略称登記ねっと、供託ねっと)」を、他の準備作業なしに利用することができることになります)

一度インストールしてしまえば、高額の印紙代も節約できるし、登記関係の申請が簡単にできるので、大変便利です。しかし、電子申請の「デジタル的準備」は、そう簡単ではありません。これを分かりやすくお教えするのが、このセクションのキモになりますが、その前に、書面申請でも電子申請でも共通する「アナログ的準備」について、ご説明しましょう。

設立登記の電子申請と定款の準備

設立登記の電子申請には、電子申請に必要なソフトのインストールや設定などの、デジタル的準備と、書面による申請とも共通する、いわばアナログ的準備の2つがあります。そしてアナログ的準備には、「定款」の内容とそれにかかわる添付書類の準備、それに法人印の制作の3つに分かれます。

法人印の制作

時系列からいうと、これが一番先になります。

  • 登記申請に添付する書類のうち、出資金が払い込まれたことを証明する書類として、出資者に対して発行した法人の領収書に法人印の押印が必要だからです。
  • それと、法人印の届けである、印鑑届書(法務省のホームページから所定の用紙を印刷します)にも法人印の押印が必要です。
  • これら押印した書類は、すべてPDFにします。そして他の定款などの書類と一緒に、代表者の電子署名を付与して、申請書に添付して法務局に送信します。

合同会社の定款の書き方

定款というのは、どんな形態の会社でも、事業の根幹をなし、社会に対して公にする、会社の憲法のようなものです。

そしてセクション1で説明した、「事業戦略」と深く結びついています。ここでは「合同会社」を例に、定款の作成にあたって、特に注意すべき点を説明したいと思います。

*「絶対的記載事項」とは、その事項を定款に記載しないと、会社として登記できない事項です。(株式会社の場合は公証人役場で認証を受けられない)*「相対的記載事項」とは、その事項を定款に記載しないと、当事者や第三者に法的効力を主張できないものです。

定款の項目絶対的記載事項〇  
相対的記載事項
                 注意すべき点
商号・商号に使えない文字やスペースがあるので注意が必要です。
目的・事業の目的は自由ですが、「書き方」について制約があることがあります(詳述)。
本店所在地・住居表示を書きます。
社員の⽒名、住所、出資及び責任・社員とは出資者のことです。株式会社の発起人にあたります。
・出資者の名前、住所と出資額を記載します。出資金は株式会社の資本金とは性質を異にしますが、後述のように添付する「決定書」には資本金と記載します。
・全員が有限責任社員であることを明記します。(合同会社の場合必須です)
役員・合同会社では業務執行社員といいます。会社を代表するのは代表執行社員といいます(詳述)。
事業年度・事業年度も自由ですが、税金や社会保険の支払い時期や額に影響するので、慎重に検討する必要があります(詳述)
計算書類の承認・定款作成人が出資者の代表者である場合は、その他の出資者の承認が必要です(詳述)
定款作成の日付と定款作成人・定款作成日は、他の日付と整合性がとれるように注意が必要です(詳述)

以下、定款の内容で注意すべき項目について説明します。

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目的

ある特定の業種については、法律で会社形態に制限を設けている場合や、行政機関の許認可が必要な場合があります。

例えば、私の行政書士ですが、行政書士は単独で会社を作ることが行政書士法によって禁じられています。複数人の行政書士が発起人または出資者となって、「行政書士法人」を作ることはできますが、行政書士の私が「合同会社ハーベスト行政書士事務所」を作ることはできないのです(*合理的根拠のない規定なので法律改正の動きはあります)。ですから、合同会社ハーベストの定款の事業目的には、

  • ⾏政書⼠の委託を受けて官公庁に提出する申請書、事実証明書等の作成・提出の代⾏事業

となっています。実は、これは登記官のアドバイスを受けて書いたものなんです。法人としてのハーベストが、行政書士個人である私に、業務を委託する形になっているのですね。つまり会社が私に「委託料」を払うわけです。

また許認可が必要な事業を行うには、許認可を出す行政機関で法人の事業目的の文言に縛りをかけている場合があるようです。例えば介護事業の場合は、「介護保険法に基づく通所介護事業」、派遣業の場合は「労働者派遣事業」、飲食店の場合は、管轄の保健所によって異なるようですが、定款に「飲食店の経営」と記載することを求める保健所もあるようです。

このように、事業に許認可を必要とする場合や、特別な法律によって事業を営むことが認められている場合には、管轄の行政機関に会社の定款の目的をどう記載すべきか、事前に相談するとよいでしょう。

業務執行社員

合同会社は原則として社員(出資者)の合議によって経営の意思決定をするので、執行社員の数や任期に制約はなく、絶対的記載事項ではありません。しかしホームページの文言一つを変えるのも、事務用品を発注するのも、いちいち合議にかけていたら、会社は前に進みません。そこで「経営と所有」の分離を図るために、経営権は1人の執行委員(すなわち代表執行社員)に任せ、他の出資者は利益の配当だけを受け取るという構成にした方が、合同会社の機動力を発揮できます。

特にあなたが大部分の出資をして、家族や親せきに手伝ってもらうような合同会社の場合は、なおさらそうです。業務執行社員の規定は相対的記載事項なので、定款に記載しておけば、後で争いが生じることはありません。

利益配分の規定及び相続についての規定

もし奥さんやお子さんが出資していた場合には、会社の利益の配分を出資比率とは別に、あらかじめ利益配分率を定めておいた方が良いかもしれません。家族経営の場合、一家として、出資額や働きに対してどれだけ利益を還元するかは、利益を給与や手当として配分するか、配当として配分するかを選択できるわけで、その時の家族の事情や節税対策として考えればよいと思います。

また合同会社は、出資者=社員がゼロになったときは、自動的に廃業となります。そこで、出資者があなた一人であるような合同会社は、家族が従業員として働いていて、事業が順調に動いているにも関わらず、あなたが亡くなった場合を想定して、出資金のあなたの持ち分を家族が承継できるという規定を置いておくと良いと思います。例えば次のようにです。

  • (社員の相続及び合併)社員が死亡し⼜は合併により会社が消滅する場合には、その相続⼈その他の⼀般承継⼈は、他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。また社員が複数である場合は、死亡した社員の持ち分を他の社員が承継することができる。

こうすれば、あなたが亡くなっても、家族で事業を続けることができますし、会社の利益に相続税を払う必要もなくなります。

事業年度

日本の企業は、4月1日~翌年3月31日を事業年度とする企業が圧倒的に多いです。これは単なる慣習に過ぎません。大会社ならともかく、小さく始める会社にとっては、これは不合理な慣習です。

理由は簡単です。税金の仕組みが1月~12月を基準に組み立てられているからです。事業年度の期間のいかんにかかわらず、所得税や住民税の課税所得は1月~12月で計算され、年末調整、源泉徴収表と給与所得報告書の作成は、12月から1月末までの間に行わなければなりません。そうであるならば、暦年に合わせて事業年度を締め、決算報告書の作成までまとめてやってしまえば、税務・労務・経理の処理が一気に片付くことになります。

注意しなければならないのは、会社設立を何月にするかです。事業年度を1月~12月としたうえで、会社を2021年9月に設立したとすると、第1期は2021年9月~2021年12月の3か月間となります。3か月間でも税金を払わなくてはなりません。売上が無くても、払わなければならない税金があります。それは地方都道府県民税と地方市区町村民税の「均等割」です(*詳しくは「住民税を分かりやすく」を参照してください)。

この均等割の額は、自治体によって異なります。埼玉県吉見町の場合は、両方合わせて年に7万円なので、月割計算で、70,000 x 3/12 = 17,500円を、遅くとも2021年2月中に納付することになります。創業して3か月間は、売上はあっても微々たるものでしょうから、ばかにならない税額です。

こうしたことも考慮して、会社設立のタイミングを考えましょう!(事業年度を変えるのではなく・・・)

定款の作成人とその承認

定款は、出資者(株式会社の場合は発起人)が、全員で作成するのが建前なので、書面の定款の場合は、ふつう出資者全員が署名捺印します。しかし電子申請の場合の電子定款には、電子署名をしますので、代表が出資者全員の代理人として定款を作成し、電子署名するほうが手間が省けます。そこで、次の一文を入れます。

  • 社員A、社員B、社員Cは、合同会社○○の設立のために、定款作成を社員Aに委任し、社員Aは電磁的記録である本定款を作成し、これに電子署名する。
  • 〇年〇月〇日 社員A、社員B、社員C 上記社員の定款作成代理社員A 

構成員としての社員Aと、定款作成代理人としての社員Aが、別々に記載されていることに注意!

定款作成の日付

これもうっかりミスをしやすい点なので、注意が必要です。次の「添付書類」の項目でも説明しますが、会社の設立にあたっては、出資者が出資金を代表者の口座に振込み、その証明書(または領収書)を添付しなければなりません。ですから、出資金の振込が終わらなければ、登記を申請することはできないはずです。

従って、これらを時系列に並べると、定款を作成する➡出資金を振込む➡その証明書、その他の承諾書を得る➡登記申請、という順番ですので、日付の前後をこの流れに合わせることに注意してください。この順番がおかしくなっていると、登記申請はつっかえされます。

なお、これも重要ですが、登記申請をした日が会社設立の日になります申請が通って、登記された日ではないことに注意!


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