1人で始める

創業に失敗しない10のステップ

総合編

「ゼロから始めて経営を軌道に乗せるまでのワンストップの手引」

このe-Bookの目的

 コロナ・パンデミックは、私たちの働き方に大きな影響を与え始めています。業種では飲食、観光、宿泊業が、男女別では、特に女性の非正規就業者、そして日本で働く外国人が手痛い打撃を受けました。

 一方、「巣ごもり」の長期化で、ネットやクラウドサービスを介した新しい働き方が拡がり、私たち自身の暮らし方を見直すことが、新しいビジネスの誕生につながっている部分もあります。

 コロナの前から、地球環境に優しい持続可能な成長(SDGs)、多様な価値観(Diversity)、デジタル改革(DX)は、世界的なトレンドでしたから。

 こうした社会の大きな流れの中で、会社に勤める働き方だけではなくて、蓄積した経験とノウハウを生かして自ら会社を立ち上げる、シニア創業、女性の創業、副業としての創業、外国人による創業に、多くの人々の関心が向きつつあると言えるのではないでしょうか。

 この小さなe-Bookは、ジャーナリストから出発して、IT企業の創業、経営、マーケティング、地域振興、助成金獲得、NPO活動などに長年携わってきた私が、成功よりも失敗を糧に学んだノウハウを、これから1人で創業してみようかなと考えている皆さんに、とりわけ小さく始める、デジタルに始める創業を考えている皆さんに、分かりやすくお伝えしようとするものです。

 創業や起業のノウハウを伝える本やデジタルコンテンツは、世の中に溢れています。しかし多くは、昔ながらの発想の事業計画の書き方や、ローマ字とカタカナ語だらけのマーケティング理論を教えるばかりで、「ゼロから始めて経営を軌道に乗せるまでのワンストップの手引」が無いように思えるのです。

 このe-Bookの利点は、事業のビジョン、戦略から始まって、1人で行う行政への届出、税務や会計のデジタル化の方法、顧客を呼び込んでファンになってもらうまでの、創業と経営にまつわる全てに関する手引きとなっていることです。

 e-Book全体では、相当な量になりますが、まずは全体のコアとなるこのコンテンツを読んで、創業の「見通し」を立ててください。「その気になった」方は、個別的なテーマを解説したサブコンテンツを読み、付属の「Stepガイド シリーズ」を印刷して手に持ちながら、パソコンを操作する作業に進んでいただければ良いと思います。

 小さく始める、デジタルに始める創業を考えている、皆さんのお役に立てることを願っています。

<創業ステップ総合編 目次>

❶ 誰の、どんな価値に、あなたは何故貢献しようとするのか?

成功を定義しなければ失敗もない

このe-Bookのタイトルは、「創業に失敗しない10のステップ」で、確かにその具体的なステップを伝授させていただこうとしているのですが、「成功」と「失敗」を定義せずに前に進むことはできません。まずそこからスタートしましょう。

ビジネスの成功をどう定義するかは、あなたがビジネスの目的(あるいはゴール)を何に定めるかにかかっています。目的を達成できれば、成功。達成できなければ、失敗です。

ゴールが山の頂上のように1か所しかなく、しかもほぼ永遠に動かないものであるなら、話は簡単ですね。頂上に到達して、無事に下山して家にたどり着ければ、登山は成功です。

しかし、あなたにとってのゴールが複数あって、しかも時間と共にその場所や形が変化し、またはそれに対するあなたの価値観が変化するような場合は、どうでしょう?

例えば、結婚生活。「あなたと一緒に幸せになる!」「君をきっと幸せにしてみせる!」と願って、誓って結婚した2人が、30年たって、自分たちの結婚は「成功」だったのか、「失敗」だったのか、振り返ってみるとしましょう。子供を授かり、郊外に家も持ち、息子も娘もそれなりに立派な社会人になり、孫もでき、財産もたまり、それなりの地位を得て、引退しようとしている夫と、その夫と年に数回旅行に行くことが何よりも楽しみな妻。

xxホームのコマーシャルとして描かれるような、典型的な「幸せのかたち」かもしれませんが、当事者であるお二人としては、「幸せな時」もあったし、「そうでない時」もあったというのが正直なところでしょう。まして「結婚の目的は達成したか?」と問われれば、「うーん、振り返ってみれば、その時、その時の目標に向かって、一生懸命やってきたというだけで、別に『目的』を意識していたわけではなわね~」、という答えしかないのではないでしょうか。

人生とは、そういうものでしょう。

しかし、今、あなたが始めようとしているビジネスは、そうであってはならないのです。

つまり、抽象的で感覚的な目的を掲げて、漠然と成り行きで始め、後で振り返って、「想えば目的はこうだった・・・」というように、マネージ(管理)してはならないということです。

なぜでしょうか?

利益や成長がビジネスの目標の時代は終わった

経営学の概念に「SMARTの法則」というのがありますが、聞いたことがあるでしょうか?

経営行動の目標は、「具体的」(Specific)、「数値化が可能」(Measurable)、「道筋が描ける」(Assignable)、「実現が可能」(Realsitic)、「期限がある」(Time-related)もので無ければならないというものです。

これは、他の多くのアメリカのビジネス理論と同じく、もともと戦争の理論から生まれたものです。戦争の目標は、SMARTな目標で無ければならない。そうでなければ、敗北し莫大な犠牲に甘んじなければならない(太平洋戦争の日本のように)。

至極当然で、ビジネスの目標が、「あなたの夢を実現すること」であってはならないのは、SMARTの法則からしても明らかです。

では、具体的な利益目標や成長目標を立て、それをビジネスの目的にすれば、それでよいのでしょうか?

年商1000万円を創業3年で達成し、その後も年3%の成長を維持する、従業員も店舗数も増えていき、都会の一等地にビルを立て・・・・

この目標に、「道筋が描ける」(Assignable)、「実現が可能」(Realsitic)な要素も備わっていれば、SMARTの法則からすれば、合格です!あなたは極めて優秀な創業者として、講演依頼も舞い込むことでしょう。

しかし、私の考えは少し違います。

「利益」や「成長」自体が悪いことではなく、「利益」や「成長」をビジネスの目標にするとこによっては、「利益」や「成長」をもたらさない時代に、私たちは突入しているのではないか、と考えるのです。

例えば、「利益」という概念の変化です。

「利益」=「売上」ー「費用」ですね。この等式自体は変わっていないのですが、「費用」についての考え方が、主に欧米で、この10年くらいで大きく変わってきています。

どういうことかというと、「費用」は、個別企業の費用だけではなく、その企業の経済活動が外部に及ぼす、Co2排出量や、プラスチックゴミなどの環境破壊のコストも含まれるべきだというのです。

そのコストは、結局、地球上のすべての人々の「幸福度」を下げるわけですから、それを取り戻す費用を企業も負担し、かつ、商品やサービスの価格上昇を通して、消費者自身も負担する、そういう時代になってきているのです。(*興味のある方は、このNIKKEI記事の一読をお勧めします)

「成長」についても、同じようなことが言えます。

経済学の理論では、

GDPの成長率=労働生産性の成長率+土地生産性の成長率+資本生産性の成長率

ということになります。

単純に考えても、どんな技術革新があったとしても、地球の人口が飽和状態に達し、森林が伐採しつくされたら、成長は天井にぶち当たるでしょう(あとは月か、火星に移住するしかありません!)

つまり、これまでビジネスの「成功」と「失敗」を分ける基準だった、ビジネスの目標の定義自体が、えらく企業の自己中心的な、エゴイスティックなものだった。

これからの企業は、自分をとりまく地域社会、国、世界、地球という全体システムの一部として、他の全ての要素と地球全体の存続という価値と無関係には、ビジネスの目標を設定できないし、そういう自己中心的でない、公的な(Public)あるいは利他的な価値をビジネスの目的とする企業こそが、顧客からの支持を集められるようになってきた、と言えるのではないでしょうか。

誰の、どんな価値に、あなたは何故貢献しようとするのか? 

同じような考え方を、ファーストリテイリングの柳井さんが述べています。

”コロナウイルスは「戦後最大の人類の危機」だ。人々の意識は大きく変わった。何のために企業があるのか、それが理解されて初めてものは売れる。ユニクロは世界で最も社会によい企業であり、ブランドであり、店舗を目指す”

”自分の得になるとか、会社が儲(もう)かるとかいうのではなく、地球や人類にとって『正しい』ことは何かを考えて行動する。日々の判断を、そういう基準で行うということです”

ちょっと読むだけでは、成りあがった大企業のトップの、「偽善」とも受け取れる発言です。

しかし背景には、上に述べた、企業の「利益」をめぐる世界の潮流があることは間違いありませんし、小さな紳士服店の店主から始まり、日々、世界中の何億という消費者と接している、小売業の「神様」だからこその実感なのだと思います。

利己的な企業の利己的な目標には、もう消費者がついてこなくなった。地球パブリックを考え、「誰の、どんな価値に、なぜ、どのように貢献できるのか?」を考えている企業だけが生き残れる。

そういう世界を創り出しつつある、もう一つの原因が、ビジネス環境のデジタル化の急進展だと私は思います。

地球上の何十億人が、1世代前のパソコンであり、ビデオカメラのようなスマートフォンを持ち、5Gのスピードで、動画を見て、商品を探し、その場で購入し、コメントをシェアする。そのような世界の消費者にとって、作り手の側からの、会社側からの自己中心的、独善的、固定観念に囚われた商品開発と広告や宣伝には、もう心を動かされないのです。

顧客の心を、本当に動かす価値とは何でしょう?

もちろん、それは、「誰の?」という問いの答えによって、千差万別です。この2つの問いと答えは、計算によって求められるものでもなく、AIによって与えられるものでもありません。

それは、まず、

あなた自身に向けられた問いとして、あなた自身が答える必要があるのです。

すると、その次の問い、「何故、どのように?」に対する答えもおのずと、見つかるはずですから。

あなたは、どういう体験をした時に、「幸せだ」「生きていてよかった」「心身ともに安らぐ」「よし、また頑張るぞ、という力が湧いてくる」・・・そんな感情や感覚を持つことができますか?

コロナ禍の自粛を破って、歓楽街でおいしい料理を、たらふく、安く、仲間や家族とわいわい盛り上がりながら食べる時ですか?

それとも・・・震災とコロナの困難をかろうじて乗り越えて生き残った、東北の豊かな自然に囲まれた温泉宿で、家庭菜園で採れたばかりの野菜を使った女将の手作り料理を、地酒と共に、近くの登り窯で焼いた器に入れて食べる。一期一会の女将や他のお客さんと、この10年を語り合う、そんな時ですか?

健康と環境に優しく、人種や性別や年齢を超えて寛容で、美しさと品格を兼ね備えており、サービスの提供と消費が互いに感謝と絆を生むきっかけとなるような、そんな商品やサービス。そこから、ひょっとするとその人の生き方を変えるような、感動が生まれるかもしれません。そういう商品やサービスこそ、顧客の心を動かす価値だといえるのではないでしょうか。きっとその人は、動画をYouTubeにアップしますし、あっという間に世界中で何十万回も再生されることでしょう。

「震災とコロナを経験して、何度、宿をたたもうと思ったことか。そても片手では数えられません。でも、そのたびに私たちは、恵みである自然と伝統と人々の絆だけにはいつも感謝し、その感謝を細々とつないできたのです。そしてそうすることで私たちは、どんな逆境でも勇気を得て、生きていけるのだと気が付いたのです。ここを訪れるお客様にも、そのことを知っていただきたくて、今も宿を続けているのですよ」

温泉宿の女将は、そう語ってくれるに違いありません。

顧客の心を、本当に動かす価値とは、それを提供するあなた自身が、心を動かされた価値なのです。その価値の秘密を知っているあなただからこそ、他の人にそれを提供できるのです。

長くなってしまいましたが、1番目の話は、「そもそもなんで~するのか?」という、目的、動機の話なので、一番大切なんです!目的と手段を混同するのが、人間の性ですから。ことあるごとに1番目にもどっていただくよう、お願いいたします。

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