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❷ 事業戦略は顧客視点から

2番目は、目的の次に重要な「戦略」です。これもアメリカで軍事戦略から経営学が取り込んだ概念で、かの地のビジネスマンや政治家やスポーツ人には骨となり肉となっていますが、日本人がこれほど苦手な概念もありません。

一言でいえば、

目的地と現在地を定め、その間に道筋を立てること。複数の道筋から最も合理的な道筋を選択することです。

ここでは、顧客視点からビジネスの戦略を立てるということの意味と、その重要性についてお話します。

事業戦略と事業計画の違い

起業・創業を支援する会社や公的な機関のホームページには、事業計画ということばがあふれていますが、戦略ということばはほとんど見当たりません。

「創業の第一歩である事業計画書」「創業に必要不可欠な事業計画」の策定を手助けします!

しかし、それほど重要な「事業計画」とは何か?という点になると、かならずしもはっきりしません。

ある税理士さんのブログには、「なぜその商品が売れると確信できるのか」を客観的に伝えられる資料と定義されていました。

ほとんどのホームページでは、銀行や政策金融や投資機関から、融資や投資を受けるためのプレゼン資料という位置づけになっているようです。それはそれで意味はあるでしょう。

でも、ビジネスは、儲かるという確信がなければやるべきではないのでしょうか?やりたいという願望だけではだめなのでしょうか?

もちろん願望だけでは、具体的に何をすべきか途方にくれるだけでしょう。しかし私に言わせれば、「確信」も「願望」も似たり寄ったりです。売上というのは、そのビジネスを継続できるかどうかの基準であって、ビジネスの目的にも目標にもするべきではありません。どっちみち、「やってみなければ分からない」のですから。

戦争に勝つかどうかは、「やってみなければ分からない」が、勝ち負けの意味を定義し、勝てる可能性を最大化し、負ける可能性を最小化するのが戦略です。「なぜその商品が売れると確信できるのか」を客観的に伝えられる資料」としての事業計画は、あくまで作文です。(「神の国である日本は負けない」という神話(神州不滅神話)に侵されていた当時の日本の中枢は、戦略を立てるという発想を持つことができませんでしたなかったのです)

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戦略を構成する5つの要素 

ビジネス戦略を構成する要素は、次の5つになります。このうち全体の考え方にあたる1、2、3についてここで説明し、マーケティング戦略については、❸❹❺章に回します。ビジネスモデルとマネーフローについては、➏章でふれます。

1.誰の、どんな価値を高めるか(目的

2.何を提供することによって、それを実現するか(商品・サービス内容

3.競争者よりもあなたが提供するものの方が、顧客にプラスなのはなぜか(競争力

4.そのことをどうやって顧客に納得させ、ファンになってもらうか(マーケティング戦略

5.事業の持続性をどのように確保するか(ビジネスモデルとマネーフロー

ここからの話は、具体的な例がないと理解が非常に難しいと思いますので、試しに「ものがたり」を横で走らせながら、理屈を簡潔にまとめてみたいと思います。こんな「ものがたり」です。

  • 埼玉県の中核都市のターミナルから車で15分ほどの畑の残る戸建て住宅に、両親と1人息子と暮らす、シングルマザーのアヤメさん(40)が主人公です。アヤメさんは都内のIT企業に勤めながらの子育てが大変で、コロナによるリモートワークをきっかけに、両親の家に同居することにしたのですが、その両親は30年間駅前の商店街でお花屋さんを営んできたものの、固定客の高齢化にコロナ自粛の影響で経営は苦しく、すっかり元気をなくしていました。子供の頃から花に囲まれて育ち、花が大好きなアヤメさんは、なんとか両親の花屋を再建し、できれば、自分もそれで家族を養っていくことはできないだろうかと、考え始めたのでした。

戦略1.目的(誰の、どんな価値を高めるか)

ビジネス戦略の第1歩は、ビジネスの目的を定めることです。

この時、最も大事なことは、「自分の夢を実現する」とか、「年収1000万をめざす」とか、自己中心的な目的であってはならないということです。あくまで「顧客にどのような価値を与えるか」を目的にしなければなりません。

しかも「顧客に与える価値」は、「満足」「幸福」「癒し」といった抽象的なものでは意味がありません。「ハーブの持つ、これまで経験したことのない味覚の広がりと、抗酸化作用による体のリフレッシュ」とか、「個性を生かしつつ、セクシーで品がよく、かつ浮き上がらないヘアースタイルで、あなたに自信を与えます」といったような、顧客にとって、「その商品やサービスを購入することで、自分がどのように変化するか」を具体的にイメージできるようなものでなければならないのです。

  • アヤメさんは、花が私たちの日常生活に与える価値は、自然との接点を持つことによってもたらされる、安らぎや元気だと信じています。自分がそうだからです。しかし大多数の人々は、その価値に気が付いていても、「どうしていいか分からない」のです。花屋は近くにないし、買ってきてどうアレンジしていいか、どう世話をすればいいか分からない。世話をしても生け花の命は短い。持続させるのは面倒くさいので、やらないのです。
  • だから、そういう人々に、「花のある日常」を定期的に届けられれば、顧客は満足するのではないかと、アヤメさんは考えました。
  • 一方、花屋のこれまでの稼ぎ方(ビジネスモデル)は、顧客が冠婚葬祭、お見舞い、プレゼントにほぼ限られていて、店舗を訪れるか電話予約をしてくる固定客がほとんどです。新規開拓をしようとして、新しい花を仕入れても、全く売れずに廃棄することも少なくありません。お花を定期的に届ける契約を結べば、収入も安定しお花のロスも少なくなると考えました。

アヤメさんは、

  • 顧客にとって、自然との接点を持つことによってもたらされる安らぎや元気を、定期的に家や職場に届けてもらえるという価値
  • 自分で何もしなくてもいいという利便性
  • 一方、サービスを提供する側にとっての、収入の安定と原材料ロスの削減による生産性の向上という価値

をビジネスの目的に定めましたね。

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    ビジネス戦略 その1 目的

  • ビジネスの目的は、自己中心的、抽象的なものではだめ。
  • ビジネスの目的は、顧客が「その商品やサービスを購入することで、自分がどのように変化するか」を具体的にイメージできるような価値として、定義する。

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戦略2.商品・サービス内容(何を提供することによって、それを実現するか)

ビジネスの目的が定まったら、次はその目的を実現する方法です。これが顧客に提供する商品・サービスの内容になり、また提供する具体的な手段になります。

ところで、戦略とは、「目的地と現在地を定め、その間に道筋を立てること。複数の道筋から最も合理的な道筋を選択すること」でした。

そこでビジネスの「現在地」を考えることが、道筋である「方法」を考える時の前提となります。ここでいう「現在地」とは2つの意味があります。

  • そのビジネスを取り巻く業界や社会の「現在地」
  • そのビジネスを始めようとしている、あなたの「現在地」

例えば、あなたが「ハーブが顧客に与える価値」をビジネスの目的として、ハーブをお客に提供する方法を思案しているとしましょう。乾燥ハーブやオイルをショップで売るという方法、ハーブを使った料理を提供するレストランという方法、ハーブティーのカフェという方法・・・色々考えられます。

あなたはハーブには精通しているけれど、料理ができるわけではない。ということであれば、レストランという選択はなくなります。ハーブティーカフェは、あなたの能力として可能ですが、あなたが出店できる地域の実情を見ると、いわゆるチェーン店の競合者が多い。またこの地域は、ハーブの価値にお金を払う人口はあまり多くなさそう。そうすると、カフェもショップも厳しいかもしれないですね。こうやって「現在地」の持っている条件を見極めていくと、ネット通販でハーブオイルや、ハーブ入りティーバック、ハーブ入りビスケットを販売する・・・などの選択肢に絞られていきます。

アヤメさんの場合は、最初から、「お花のある日常を宅配する」という選択にこだわっていました。それは❶花屋業界の現在地の「稼ぎ方」(ビジネスモデル)に限界を感じていたからですし、❷アヤメさん自身が持っている能力を、もっとビジネスに活用できる方法があると感じていたからなんです。この点は、マーケティング戦略のところで明らかになります

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ビジネス戦略 その2 商品・サービス内容

  • どのような商品・サービスを、どのように提供するかが、目的を実現するための方法(道筋)となる。
  • 業界、社会、あなたの現在地を見極めることによって、目的地に至る道筋を描く。
  • 道筋は幾通りもある。可能性を最大化し、リスクを最小化する道筋を選択すべし。

戦略3.競争力(競争者よりもあなたが提供するものの方が、顧客にプラスなのはなぜか)

競争力とは、一般的に「競争者に勝てる力」のことをいいます。商品・サービスの価格や品質、あるいは店舗の場合は立地条件などが、競争力になる要素だと考えられています。

潜在顧客数と競合者数の相関関係のグラフ
グラフ1
価格設定の仕方による潜在顧客と競合者の数の変動及び売上の最大化のグラフ。
グラフ2

潜在顧客(当該の商品・サービスを求めていると想定される顧客の数)が多いほど、ふつう競合者の数も多くなります。例えば、駅前でラーメン店を出店する場合とか、Amazonにハーブオイルの店を出店するような場合です(グラフ1のBの場合)。逆に、駅から離れた住宅地の一角にラーメン店を出せば、潜在顧客数も少ない代わり、競争者もほとんどいません(Aの場合)。

一方、このグラフの裏には、価格曲線(グラフ2の点線)が走っています。通常の価格曲線は、価格が安いほど潜在顧客は多くなり(Eの場合)、価格が高いほど少なくなります(Dの場合)。同時に、これは商品価格が安くなるほど、その価格で商売をしたいという競争者も少なくなることをも意味しています。ですので、駅前のラーメン店の場合、だいたい需要と供給が一致するCの価格(例えば平均単価750円)で提供することになるわけですが、あえてEの価格(例えば600円)で提供する店があれば、競争相手が少なくなるので、三角形ECAの面積に等しい売上を得ることができます。

これが典型的な価格競争の例です。Eの価格で提供するお店に行けば、顧客は「ラーメンを低価格で食べられるという価値」を得ることができ、その点でそのお店は競争力があることになります。

しかし競争力は価格だけに限りません。もし提供する商品・サービスに、顧客が「他の競合者からは得られないような特別の満足という価値」を認めたならば、Dの価格で提供することも可能かも知れません。この場合、潜在顧客の数は少なくなりますが、その店が得られる売上△DCAは、価格競争をやった場合の△ECAと同程度か、あるいはひょっとするとそれを上回るかもしれないのです。

アヤメさんの「お花の宅配便」は、店舗を構えて冠婚葬祭やお見舞いの顧客ニーズに依存している競争者と、価格でも立地でも、そして品質でも競争していません。競争者たちとは、顧客に提供する価値が全く異なるからです。これこそ隠れていた顧客ニーズを掘り起こして、新しいマーケットを創造した例です。

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    ビジネス戦略 その3 競争力

  • 商品・サービスの価格、品質、立地などの要素で、競合者の数(競争の厳しさ)は変化する。
  • 価格競争ではなく「価値の競争」が求められる。競争者よりも顧客にプラスになる価値を与えられるよう、商品・サービスを設計すべし。
  • 最善の選択は、顧客の隠れているニーズを掘り起こし、新たなマーケットを創造することである。

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