❽ なぜ合同会社なの?
個人事業主か法人か?
小さな事業を始めようとしている時に、誰もが最初に頭を悩ませるのが、個人事業主として始めるか、それとも法人として始めるかという点でしょう。そして法人の場合、株式会社にするのか、合同会社などの別の形態にするのかという問題が続きます。
まずは、個人事業主か法人かを選ぶ基準について考えてみたいと思います。
- 個人事業主で始めるメリットは、ほとんどない。
- 個人事業主では、会社のネットワークに入っていけないというデメリットがある。
結論から先にいうと、こうなります。なぜか?その理由を説明します。
税と社会保険の負担が大きい
「始めは売り上げも少ないだろうし、個人事業でいいのではないか・・・」と考える方は多いと思います。ところが実際は、全く逆で、始めこそ、個人事業主の方が社会保険料の負担が大きくなります。
次の表は、創業1年目の個人事業主と1人合同会社の場合の、会社=代表本人の負担を比較したものです。代表の給与(役員報酬)は、年金保険料と健康保険料を払える最低限の水準に設定しています。前年度の所得が300万円で配偶者がいる2人世帯とします(数値は私の住む埼玉県吉見町の基準です)
税と社会保険料の項目 | 個人事業主の場合の負担額 | 1人合同会社の場合の負担額 |
健康保険料と年金保険料*1 | 394,000 199,300 | 278,000 |
配偶者の分を含めた合計額*2 | 792,600 | |
個人住民税*3 | * | * |
源泉所得税*4 | 0 | 0 |
法人都道府県民税と市区町村民税の合計*5 | 70,000 | |
法人税・法人事業税*6 | 0 | |
合計 | 792,600 | 348,000 |
*1 個人事業主の場合は国民健康保険、国民年金、1人合同会社の場合は協会けんぽと厚生年金になります。*2 国民健康保険は世帯主にかかりますが、国民年金は配偶者にも均等にかかります。つまり倍になります。*3 住民税は前年・前々年の所得が反映されますが、事業形態で差はありませんので、無視します。*4 社会保険料の控除や基礎控除、配偶者控除などを合わせると、年収140万円くらいまでは所得税はかかりません。*5 これらは会社の利益がゼロでも均等割という固定額を納付する必要があります。*6 これらは会社の利益に対してかかってきますが、原則として初年度の会社利益はゼロとする戦略で行くとします。
ご覧のように、個人住民税を無視しても、個人事業主の国民健康保険と国民年金の合計年額は80万円近くになります。これに対して、1年目の法人利益をゼロで行く戦略の場合、法人の代表者の負担額は35万円に過ぎません(利益を出したとしても、この差を逆転するようなものではないでしょう)。
会社勤めをずっとしてきた人にとって見ると、国民健康保険と国民年金の負担は驚くべきものです。どうしてこうなるかというと、
- 厚生年金などは配偶者分を含めた保険料であるのに対し、国民年金などは1人当たりの保険料で、2人世帯であれば倍になる。
- 国民健康保険の所得割の部分は、前年度の所得に対してかかる。
- 保険財政が厳しい市区町村は、どうしても個人負担額が大きくなる。
という事情があるのです。
事業を開始して、2年、3年と経って、幸いにも法人利益を多く出すようになれば、法人税や法人事業税の負担は大きくなりますし、それに対応する法人住民税(法人都道府県民税と市区町村民税)も増えるでしょう。いつかは個人事業主の負担を逆転するかもしれませせんが、事業がスタートしたての余力がない時に、年間100万円の保険料負担は大きいです。
つまり個人事業主で始める、税や社会保険関係のメリットはないのです。
信用とネットワーク
個人事業と比べた法人化のメリットのもう一つは、社会的信用度にあります。社会的信用度なんて主観だから、人によって違うのは言うまでもないのですが、一般的にそういわれるのには、それなりの根拠があります。
法人を作って維持していくには、大変な手間がいる=生半可な気持ちでやっていない=信用できる
という公式が成り立つといってよいでしょう。
また法人が納めなかければならない税金は、節税の方法はいろいろあるといっても、個人事業よりも多くの種類になります。しかも所得税の源泉徴収や住民税の特別徴収など、従業員個人に代わって会社が体系的に申告し納付しなければならないものもあります。厚生年金や健康保険は従業員と折半して負担します。これらの複雑な手続きが要求されるのは、法人が従業員を雇用していて、地域経済にも貢献することが求められるなど、社会的責任が重いからです。
社会的責任の重さ=社会的信用度の高さ
という公式も成り立つでしょう。
同じことの別の側面を言っているのかもしれませんが、会社には会社同士のネットワークがあり、そこには個人事業主はなかなか入っていけません(もちろん、その逆も同じですが)。ロータリークラブや青年会議所のような、化石的ネットワークを言っているのではありません。今や、Face BookやLinkdenやPinterestのようなSNSを通じて知り合い、それがオフ会につながっていくというのが流れですが、そういう人の集まりも、やはり会社の経営者同士、会社の同じ担当部門同士で形成されるようです。そして、それは常にビジネスを意識した集まりですから、会社同士の協業につながりやすいのです。
そして協業のための契約ということになると、これはもう法人同士の契約しか考えられないですね。
創業間もない時期は運営コストの面で、個人事業主の方が、負担が大きい。
会社は会社ならではのネットワークができやすく、協業にも結び付きやすい。
従って、個人事業主を選ぶメリットはほとんどない。
合同会社か株式会社か?
合同会社という名称は、かなり浸透してきたと思います。西友が合同会社になったり、GoogleやAmazonの日本法人が合同会社だったりすることも影響しているでしょう。しかし、何よりも、小さい規模で創業する企業にとって、合同会社という形態がメリットがあるということが、認識されてきたことが大きいのではないでしょうか。
次に合同会社と株式会社の主な違いを表にしました。
比較項目 | 合同会社 | 株式会社 |
登録免許税 | 60,000 | 150,000 |
定款の認証と費用 | 不要 | 必須 50,000 |
経営に対する支配力 | 出資者間で対等 | 持株比率に比例 |
決算報告書の公告と費用 | 不要 | 必要 60,000 |
資金調達の方法 | 借入のみ | 新株発行 社債発行 |
利益配分の方法 | 自由 | 持株数に比例した配当 |
令和3年1月時点の登記済み総数 同1月の新規登記件数*出典法務省 | 7,651件(8.4%) 3,059件(28.3%) | 70,242件(77.0%) 7,759件(71.7%) |
これを整理すると次のようになります。
- 設立費用は株式会社が3倍以上かかる(維持費も、決算公告や役員変更登記などのコストがかかる)。
- 経営の意思決定や利益配分は、株式会社が合理的だが手間がかかる。合同会社は出資者の人間関係が円滑であれば、早く柔軟。
- 社会的な公開度は株式会社が高い。よっていわゆる信用度は高い。
- 合同会社の新規登記数は、急速に増えてきている。
従来、合同会社の知名度が低いために、銀行に法人口座を設けるのが難しいなど、「社会的信用度」が劣ると言われていた時もありましたが、令和3年1月の新規登記数が全体の28%に達したことでも分かるように、もはや当てはまらないといっていいでしょう。ハーベストも法人口座を申請するときに、銀行から合同会社であることを問題にするような発言は、いっさいありませんでした。
NPO法人について
あなたが一人で法人を作り、奥さんに手伝ってもらって、パソコン教室を開き、地域に貢献したいとお考えなら、NPO法人(特定非営利活動法人)も選択肢の一つとして十分に合理性があります。
NPO法人については、ちまたで多くの誤解があります。お客からお金を取ってもいいし、儲けてあなたの年収を1000万円にしたっていいのです。NPO法人として認定されるための条件は、重要なものとしては次の3つです。
- 事業目的が法律に掲げられた20の活動のいずれかに当たること
- 報酬を受け取る役員が全体の3分の1以下であること
- 利益を分配しないこと(*これが「非営利」であることの定義になります)
詳細は「特定非営利活動促進法」を見ていただくことになりますが、役員の数は3人以上となっているので、あなたを含めた家族・親戚で分担するとして、あなただけが報酬を受け取ればよいのです。報酬額に制限はありません。ですから、法人として利益が出ないように報酬を高くすればよいのですし、もし利益が出たとしても、それを出資者の間に配当しなければよいのです。ではどうするか?次の年に繰り越せばよいのです!
とは言え、NPO法人は、本店のある都道府県から認可(認証)を受けなければならず、毎年事業報告書と決算報告書を提出して、承認を受けなければなりません。それだけの手間をかけるメリットがどこにあるのかというと、
- NPO法人は管轄の都道府県から助成金・補助金を受けることができる
- 認定NPO法人になると、寄付が免税されるので、寄付金を集めやすくなる
という点につきます。
地域農産物を加工して商品化するNPOや、レストランのNPOもあり、業種は限定されませんが、助成金・補助金を受けやすいことや、行政とのつながりが強いこともあって、積極的にマーケティングして顧客を獲得していこうという志向が、余り強くない団体が多いようです。
結局、どういう法人形態を選ぶかの基準は、
- 投資を得たいなら株式会社
- 助成金・補助金を得たいならNPO法人
- それ以外なら合同会社
ということになるでしょう。そういことから、「ミニマル創業のすすめ~小さく始める、デジタルに始める~」で想定している法人は、合同会社なのです。
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